RAFT重合 (Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer Polymerization, 可逆的付加開裂連鎖移動重合)はリビングラジカル重合法の一つです。
現在では、ブロックポリマーの合成などに広く利用されている重合法です。
この記事ではRAFTの重合機構やRAFT剤、適用可能なモノマーについて解説します。
RAFTの原理・重合機構
RAFT重合はオーストラリアのCSIROにより発見されたリビングラジカル重合法の一種です。(CSIROは日本で言うところの産総研のような組織です。)
RAFT重合は交換連鎖機構と呼ばれる方式でリビングラジカル重合を実現しています。

末端に付加しているRAFT剤は成長ラジカルと反応して可逆的に脱離反応を起こします。
これによって新しい成長ラジカルを生成し、反応が進んでいきます。
一見これだけだと常に成長ラジカルが存在しているのリビング重合にならないように見えるかもしれません。
ですが、RAFT剤よりも十分少ない成長ラジカルのみにしておけば、系内のラジカル濃度は低濃度に保たれます。
そしてRAFT剤はポリマー末端を非常に素早く移動していくため、結果的にリビング重合になります。
図で書くと以下のようなイメージ。

ごく少数の成長ラジカルと大多数のRAFT末端を有するポリマーがいる状態になっています。
RAFT剤の種類と選定のポイント
RAFT剤はALDRICHなどから様々な種類ものが販売されています。
重合機構で紹介した通り、交換連鎖によってリビングラジカル重合になっていますが、この平衡反応は成長末端のラジカルとRAFT剤に付加してできるラジカルの安定性が重要です。
このため、モノマーに応じて最適なRAFT剤が違っています。
各種構造のRAFT剤と適用可能なモノマーの対応について解説します。
まず、以下の表をご覧ください。

この表を見れば、モノマーとRAFT剤の適切な組み合わせがある程度分かります。(実際にはZやRによってモノマーとの相性が変化するため、必ずしもすべてのパターンで当てはまるわけではありません。)
RAFT剤とモノマーの適切な組み合わせは成長ラジカルの安定性とRAFT剤に成長ラジカルが付加したときに生成するラジカルの安定性から定性的に予想できます。
成長ラジカルに対してC=S二重結合が不安定(RAFT剤由来のラジカルが不安定)すぎる、もしくは生成するRAFT剤のラジカルが安定過ぎると交換連鎖機構が十分に起こらず、制御性を失います。
すなわち成長ラジカルとRAFT剤由来のラジカルの安定性のバランスが重要になります。
例えば、比較的安定な成長ラジカルを生成するスチレンに適したRAFT剤はトリチオカーボネート系のRAFT剤で、S原子によって安定化されたラジカルを生成するためスチレンとの相性が良いのです。
一方で不安定で反応性に富む成長ラジカルを生成する酢酸ビニルに適したRAFT剤はジチオカルバメート型やキサンテート型のRAFT剤です。
RAFT剤のラジカルがO原子やN原子によって不安定化され、C=S二重結合の反応性も低くなっていますが、成長ラジカルの反応性が良いため、RAFT剤のC=S結合の反応性も下げてRAFT剤由来のラジカルの安定性を下げています。
仮に酢酸ビニルのRAFT重合にトリチオカーボネート系を使ったとすると、成長ラジカルがC=S二重結合に付加して生成したラジカルが安定で開裂反応が起こらず、重合が進行しなくなります。
RAFT重合 適用可能なモノマー
メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン類に適用可能です。
酢酸ビニルやN-ビニルピロリドンなどの非共役モノマーにも適用可能なRAFT剤もあります。
RAFT重合の重合処方
RAFT重合の重合処方はアルドリッチのページが参考になります。
基本的にRAFT剤の量と重合率で分子量が決まります。
開始剤はRAFT剤の量よりも少ない量を添加します。そうしないとフリーラジカルが多く発生して、リビングラジカル重合にならないからです。
まとめ
RAFT重合は様々なモノマーに適用可能な重合法です。
また遷移金属触媒を使用しなくても良い点ではATRPよりも優れており、非常に汎用性の高いリビングラジカル重合です。
RAFT剤はアルドリッチや富士フィルム和光純薬から試薬として販売されているので、容易にブロックポリマーや分子量分布の狭いポリマーを合成可能になっています。
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