原子移動ラジカル重合(ATRP)

リビングラジカル重合法の一つに原子移動ラジカル重合(ATRP)があります。

ATRPはRuの系が澤本らによって、Cuの系がmatyjaszewskiらによって発見され、現在では広く利用されている重合法です。

この記事ではATRPの重合機構や用いられる触媒、開始剤、適用可能なモノマーについて解説します。

ATRPの重合機構

ATRPは遷移金属触媒を用いたリビングラジカル重合です。

ポリマー末端の炭素-ハロゲン結合を遷移金属触媒によってラジカル的にかつ可逆的に活性化することでリビングラジカル重合が進行します。

ATRPで得られるポリマーの末端は炭素-ハロゲン結合を有するため、ポリマー末端の官能基化も容易に可能です。

ATRPに用いる遷移金属

ATRPに用いことができる金属種は非常に多いです。

現在、適用可能な金属種としては、Ru, Cu, Fe, Ti, Rh, Ni, PDなどの例が報告されています。

ですが、コストや効果の観点からCu触媒が用いられる場合が多いです。

Cu触媒の配位子

Cu触媒の場合、一般的に配位子としてアミン系の多座配位子が用いられます。

ビピリジン(bpy)は一般的な多座配位子ですが、活性は低めです。

ATRP用の高活性な多座配位子としてはトリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(Me6TREN)が挙げられます。

具体的な重合処方に関してはTCIやアルドリッチのサイトが参考になります。

ATRPの開始剤

ATRPの開始剤は金属触媒で活性化可能な炭素-ハロゲン結合を有する化合物が用いられます。

開始剤の構造がポリマー末端の構造と近いほど優れた開始剤になります

これは開始剤の炭素ハロゲン結合の開裂とポリマー末端の炭素ハロゲン結合の開裂が似たような速度の方が良いということです。

例えば、メタクリル酸メチルのATRPにおいては、2-ブロモプロピオン酸エチル よりも2-ブロモイソ酪酸エチルの方が制御性に優れています。

メタクリル酸メチルのATRPに2-ブロモプロピオン酸エチルを用いた場合、開始剤の炭素-ハロゲン結合よりもポリマー末端の炭素ハロゲン結合の方が可逆的な活性化、すなわち開裂反応が起こりやすくなります。

このため、開始反応速度<重合反応速度となってしまい、得られるポリマーの分子量分布の悪化を招きます。

適用可能なモノマー

ATRPを適用可能なモノマーはアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン誘導体が挙げられます。

アクリル酸などのカルボキシ基を有する場合は触媒を不活性化することがあり、うまく行かない系もあります。

酢酸ビニルでの重合の報告もありますが、高い分子量のポリ酢酸ビニルを得るのは難しいようです。

これは非共役モノマーでは遷移金属によるラジカル的な開裂を起こすのが難しいことや頭-頭結合の発生が影響していると考えられています。

ATRPの重合処方

ATRPでの具体的な重合処方はアルドリッチのサイトが参考になります。

https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/materials-science-and-engineering/polymer-synthesis/atrp-for-everyone

適用可能なモノマーも多くブロック共重合体も容易に重合できるため、非常に使いやすい重合法です。

一方で遷移金属を用いるため、合成したポリマーに金属成分が残存する可能性があります。気になる場合はRAFT重合によるブロックポリマーの合成が有効です。

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