リビングラジカル重合法の一つにNMP(Nitroxide-Mediated-radical-Polymerization, ニトロキシド媒介ラジカル重合)があります。
NMPはリビングラジカル重合法として最初に発見された系です。
この記事ではNMPの原理と重合機構や適用可能なモノマーについて解説します。
NMPの原理と重合機構
NMPはニトロキシドラジカルを利用したリビングラジカル重合です。
基本的な原理は以下のような可逆的な活性化と不活性化の機構に基づいています。
上の化学式では2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)をニトロキシドの例として、書いています。
ポリマー末端のアルコシキアミン誘導体の炭素-酸素結合がラジカル的に開裂することで成長ラジカルとニトロキシド(Scheme 1ではTEMPO)が生じます。
成長ラジカルはモノマーと反応しますが、反応式の平衡はアルコキシアミン側(上の反応式での右側)に偏っています。
このため、成長ラジカルはニトロキシドと素早く反応して不活性化されます。
このように、大半は休止状態のアルコキシアミンの状態になっていますが、一部がラジカル的に開裂して成長種が生成することでラジカル濃度を低濃度に保ちなながら重合反応が進行します。
NMPにおいてもう一つ重要な点は安定なラジカルであるニトロキシドはスチレンに付加反応を起こさない、すわなち成長末端のラジカルを新たに発生させないという点です。
これによってニトロキシドは成長末端のラジカルに対してのみ反応して、休止種であるアルコキシアミン誘導体を生成できます。
このように、不活性化反応の速度が重合速度に対して十分速いこと、そしてニトロキシドが成長種のみと反応して休止種を生成することからリビングラジカル重合となります。
より具体的に説明するため、ここでは最初に発見されたスチレン/BPO/TEMPOの系でNMPの反応について詳細に解説します。
開始反応はBPOから発生するラジカルがスチレンに付加する反応です。
TEMPOなどのニトロキシドラジカルは酸素ラジカルと反応しないため、BPOから発生した酸素ラジカルはスチレンと反応します。
そしてスチレンに付加して生じた炭素ラジカルはTEMPOと速やかに反応して休止種を制します。
このような反応が重合初期に進行し、休止種であるTEMPOとスチレンが付加した化合物は可逆的な開裂反応を起こします。
これによって成長種が可逆的に生成し、成長反応が進行します。
休止種の生成と成長種の生成は平衡反応であり、平衡は休止種側に偏っています。
この平衡によってラジカル濃度を低くして、成長種同士での停止反応を抑制しています。
使用可能なニトロキシド
最初に発見されたNMPの系は、上述のスチレンをモノマーとして、TEMPOをニトロキシドラジカルとして用い、開始剤としてBPOを用いた系です。
スチレンの重合において、TEMPOはリビングラジカル重合を行えるものの、高温かつ長時間の重合条件が必要です。
そこで、NMPに適したように改良されたニトロキシドが開発されています。
いくつかの高活性なニトロキシドが報告されていますが、以下の2,2,5-トリメチル-4-フェニル-3-azahexane-3-niroxide (TIPNO) の誘導体はシグマアルドリッチでも販売されています。
TIPNOを用いることで、TEMPOでは困難だったアクリル酸エステル類の重合も可能です。
以下のすぐ間アルドリッチのページでもt-ブチルアクリレートと4-アセトキシスチレンのブロック共重合の重合例が紹介されています。
TIPNOのようにニトロキシド周りの立体障害をある程度大きくすることで炭素ー酸素結合が適度に開裂しやすくかつ不活性化される設計になっています。
これにより、アクリル酸エステルの重合やTEMPOを用いた場合よりも低温でスチレン類を重合することが可能になっています。
適用可能なモノマー
NMPで制御重合が可能なモノマーは、スチレン系モノマー、アクリル酸エステルです。
TEMPOではスチレン類のみでしたが、高活性なニトロキシドを用いることでアクリル酸エステルも重合可能です。
一方でメタクリル酸エステル類はNMPでの制御重合が困難です。
この理由はニトロキシドラジカルが成長末端の水素引き抜きを起こしてしまうためです。
アクリル酸エステル類やスチレン系モノマーでは水素引き抜きはほぼ起こりませんが、メタクリル酸エステルではこの反応が起こりやすく、実質的な停止反応が起こってしまいます。
まとめ
NMPはニトロキシドによる末端の可逆的な活性化と不活性化によるリビングラジカル重合です。
炭素ー酸素結合の可逆的な開裂と付加を利用することでリビング性が発現します。
金属を用いずともリビングラジカル重合が可能である点はメリットです。
しかし、NMPは使用できるモノマーに制限があること、高い重合温度が必要であること、特殊なニトロキシドが必要なこと、といった観点からやや汎用性に欠ける点がデメリットです。
リビングラジカル重合で分子量分布の狭いポリマーやブロックポリマーを合成する場合には、より汎用性の高いRAFTやATRPの方が広く使われるケースが多いです。
コメント