ポリマー(高分子)は有機化合物と異なり、単一の分子量を持つ化合物ではありません。
高分子鎖一本一本で重合度が異なっており、分子の大きさもバラバラ。
このため、単純に「分子量」という考え方を持ち込むことができません。
そこで高分子の分子量を表す方法として、一般的に数平均分子量や重量平均分子量を用いています。
この記事では、高分子の数平均分子量と重量平均分子量の違いを解説します。
数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwの違い
まずは数平均分子量から解説します
数平均分子量は一般的に「Mn」と表記されます。
分子量をM、分子の個数をNとして表記して、高分子中に含まれる分子量Miにおける分子数をNiとするとMnは以下のように表現されます。
分母は分子数の合計、分子は分子数×分子量の合計となります。
数式だと分かりにくいので、具体的に以下のような分子量と分子数を持った高分子の集まりを考えてみましょう。
- 分子量1,000の分子が10個
- 分子量10,000の分子が10個
- 分子量100,000の分子が10個
このときの数平均分子量Mnは、以下のように計算します。
この操作は単純平均を取るのと同じで分子1個当たりの分子量の平均値を求めているわけです。
次に重量平均分子量について説明していきます。
重量平均分子量は一般的に「Mw」と表記されます。
同様に分子量をM、分子の個数をNとして表記して、分子量Miにおける分子数をNiとするとMwは以下のように表現されます。
分母は分子量×分子数の合計で、分子は分子量の二乗×分子数の合計となっています。
上と同じ例で重量平均分子量を求めるには、以下のように計算します。
計算から分かるように数平均分子量よりも重量平均分子量の方が大きい数字なります。
数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwは何を表している?
このように計算方法が違うことで、その値にも大きな違いが出てしまっています。
ですが、それぞれの分子量が表現したいことが違うためにこのようなことが起こります。
数平均分子量が表していること
数平均分子量はポリマー中に含まれる高分子鎖1本の分子量の単純平均です。
つまり、ポリマー中の高分子1分子の大きさの平均値を示しています。
重合反応でどれくらいの大きさのポリマーができたかを判定する際はこちらが使い勝手が良いです。
重量平均分子量が表していること
高分子の集合の中でどれくらい分子量の大きな分子が存在しているかを示しています。
数平均分子量では、一つの高分子鎖を同じように扱っていますが、実際には高分子の集合の中での占める体積は分子量が大きいほど、大きな体積を占めます。
先ほどの例で
- 分子量1,000の分子が10個
- 分子量10,000の分子が10個
- 分子量100,000の分子が10個
という集まりを考えた場合に分子量100,000の分子は集合の中で大きな体積を占めることが直感的に分かると思います。
仮に分子量によって密度が変わらないとすれば、分子量100,000が占める体積は約90%となります。
数平均分子量Mnは37000ですが、この高分子の集まりにおいて体積のほとんどは分子量100,000の分子なわけですから、物性を考えると重量平均分子量Mw=91000の方が実態に近いと考えられます。(分子量の小さい分子は個数が同じでも占める体積は小さいので物性への寄与が小さい。)
このため、高分子の実際の物性との相関があるのは一般的に重量平均分子量なのです。
数平均分子量と重量平均分子量から分子量分布を求める
高分子の世界ではポリマー1本当たりの分子量にばらつきがあるため、そのばらつき具合の尺度として分子量分布という概念があります。
分子量分布は重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比、すなわちMw/Mnで表されます。
この値は多分散度と呼ばれており、分子量の広がりを表す尺度になります。
上の例で計算すると、
Mw/Mn = 91000÷37000 ≒ 2.46
となります。
Mw/Mnが大きいほど、分子量のばらつきの大きいポリマーということになります。(すなわち分子量分布が広い)
逆に分子量の分布がない、つまり単一の化合物である場合はMw=Mnとなるため、1となります。
MwとMnの計算式から分かる通り、MwとMnの大小関係は必ずMw≧MnとなるのでMw/Mが1より小さくなることはありません。
通常の重合方法では分子量分布Mw/Mn=2程度のポリマーとなることが多いですが、リビング重合という重合法で分子量分布の狭い(Mw/Mnが1に近い)ポリマー得ることができます。
重合反応を考えるときは数平均分子量を使う
先ほどの書きましたが、重合反応でどれくらいの分子量のものができたか、どのような反応になっているのかを考えるときは数平均分子量を使う方が良いです。
数平均分子量を考える方が、重合が開始した末端がどれくらいあって、どの程度のモノマーが1分子にくっついたかが分かりやすいからです。
物性を考えるときは重量平均分子量を使う
一方で合成したポリマー(高分子)の物性を考えるときは重量平均分子量を使い方が良いです。
重量平均分子量は分子量の大きいものが体積中に多く含まれているという点を考慮しているからです。
なので、ガラス転移温度(Tg)などの物性も数平均分子量ではなく、重量平均分子量のほうが強く相関が出ます。
実際に高分子で製品をデザインする場合にはMnで分子量を狙うよりもMwで狙うことの方が多くなります。
分子量と分子量分布の測定方法
高分子の分子量や分子量分布の測定でよく使われているがGPCと呼ばれる液体クロマトグラフィーで行われます。
多孔質ゲルを充填したカラムに高分子の溶液を通過させると、分子量の大きなものほど通る経路が限定されて早く出てきます。
GPC測定では、事前に標準物質の流出時間を測定しておき、その流出時間と測定した高分子の流出時間を比較することで、分子量と分子量分布を見積もります。
一般的にポリスチレンやポリメタクリル酸メチルなどが標準物質として用いられます。(分子量分布の狭いポリマーを比較的容易に準備できるため)
GPCによる分子量や分子量分布の測定は標準物質との相対的な分子量と分子量分布が比較的簡単に測定できるため、高分子の分野では広く利用されている手法です。
まとめ
高分子の数平均分子量と重量平均分子量の違いについて解説しました。
これらの分子量の考え方は低分子の化合物にはないもので、非常に分かりずらいです。
ですが、高分子というテーマを扱う上では重要な考え方なのでマスターしておきましょう。
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