リビングラジカル重合の基礎

ラジカル重合において分子量や分子量分布を精密にコントロールすることは難しいと考えれてきました。

これはラジカルの反応性が高く、活性種を安定な状態に保つのが困難だと考えられていたからです。

ですが、近年ラジカルを活性種とした重合においても分子量や分子量分布をコントロールできる方法、すなわち「リビングラジカル重合」が見出されています。

この記事では、リビングラジカル重合の基本的な考え方と代表例をご紹介いたします。

リビングラジカル重合の提唱と発見

リビングラジカル重合の可能性について、「イニファーター重合」がその原型とも言える重合法です。

光照射によってラジカルが発生し、それらのラジカルが開始剤と連鎖移動剤として働くとでリビングラジカル重合となる(休止種が生成する)可能性が指摘されていました。

ジチオカルバメートを光照射するとラジカル的に開裂し、可逆的に付加することを利用して成長種を発生させることが可能です。

このようなイニファーター重合では、重合時間に応じて分子量が増大するというリビング重合的な挙動が見られます。

しかし、残念ながらジチオカルバメートから発生するチイルラジカルもモノマーと反応してしまい、分子量分布をコントロールするまでには至っていませんでした。

そして、最初のリビングラジカル重合の例となったのはスチレンをモノマーとして、開始剤にBPO、添加剤にTEMPOを用いる系です。

TEMPOは重合禁止剤として知られている化合物で、安定なラジカルとしては非常に有名な化合物です。

TEMPOは開始剤とスチレンが反応して生成する成長ラジカルと反応して重合を反応を停止させます。

ですが、温度を掛けてやると再びラジカル的に開裂して成長ラジカルが生成するようになります。

このラジカル的な開裂と結合は平衡反応であり、成長ラジカルを低濃度に保つことができます。

この重合法は現在ではNMPと呼ばれるリビングラジカル重合です。

その後、ATRPやRAFT、TERPなどの様々なリビングラジカル重合法が発見されています。

次にリビングラジカル重合の大まかな機構について解説します。

リビングラジカル重合の機構

リビングラジカル重合はいかにラジカル種を失活させないようにするかが重要です。

そのためはラジカルと休止種の平衡状態を利用して、成長ラジカルを低濃度に保つ工夫が必要になります。

リビングラジカル重合の機構は可逆的開裂機構と交換連鎖機構の二つに分類できます。

可逆的開裂機構

可逆的開裂機構では、末端がⅩ基でキャップされた休止種がラジカル的に開裂することで成長種が生成します。

可逆的開裂機構

このラジカル的な開裂は平衡反応になっており、一時的に成長ラジカルが生成してモノマーと反応しますが、素早くⅩ基によってキャップされます。

この平衡反応を利用することで、ラジカル濃度を低濃度に保ちつつ、ラジカルの失活を防いでいます。

NMPやATRPはこの機構に該当します。

この機構において重要なのは休止種と成長種の平衡反応を制御することと可逆的かつ選択的に成長末端と安定ラジカルが反応することです。

平衡反応が休止種に偏ると重合は進行しませんし、成長種に偏るとリビング性が保たれません。

可逆的な開裂によって、Ⅹ基からもラジカルも同時発生しますが、このラジカルがモノマーと反応しないことや、Ⅹ基由来のラジカル同士がカップリング反応しないことも重要です。

Ⅹ基が安定なラジカルの場合はモノマーと反応しませんが、安定なラジカル同士も反応しません。

この機構については、「安定ラジカル効果」で説明がなさえれています。

安定ラジカル効果とは、安定ラジカル存在下では不安定なラジカル種は安定ラジカルと優先的に反応しする効果のことです。このためリビングラジカル重合においては、不安定な成長ラジカルとX基由来の安定ラジカルが優先的に反応するため、成長ラジカル同士のカップリングが抑制されます。

交換連鎖機構

こちらの機構はラジカル種が連鎖移動剤に対して可逆的な連鎖移動反応をすることによって、成長種の失活を防ぐ方法です。

RAFT重合と呼ばれるリビングラジカル重合法はこの機構でリビングラジカル重合を達成しています。

交換連鎖機構

成長ラジカルはポリマー末端の残基(反応式ではⅩ基)へ連鎖移動反応するとともにポリマーラジカルを発生させます。

この機構によってラジカル濃度を低濃度に保ちつつ、連鎖移動する残基がポリマー末端を行き来することで末端のⅩ基一分子からポリマー鎖が成長していきます。

重要なのは成長反応の速度に対して交換連鎖する速度を制御することです。

交換連鎖速度が遅いと成長反応がずっと発生してしまうため、リビング重合になりません。

また、連鎖移動剤への付加反応によって安定なラジカル種を生成してしまうと重合は進行しません。

交換連鎖機構では成長ラジカルの反応性と休止種の安定性のバランスが重要になります。

このため、RAFT重合ではモノマー種によって用いるRAFT剤を変えることで交換連鎖がうまく起こるようにしてやる必要があります。

代表的なリビングラジカル重合

代表的なリビングラジカル重合法として以下のようなものがあります。

  • ニトロキシド媒介重合(NMP)
  • 原子移動重合(ATRP)
  • 可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT重合)
  • 有機テルル媒介重合(TERP)
  • ヨウ素移動重合(ITP)
  • 有機金属媒介ラジカル重合(OMRP)
  • 可逆的連鎖移動触媒重合(RTCP)

各重合法の詳細については個別に解説をする予定です。

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