重合反応は多くのモノマーが一つの巨大分子となる反応のため、エントロピー的には不利な反応です。
ビニルモノマーの重合では、ラジカルなどの付加反応によって二重結合が単結合になることによってエネルギー的に安定な方に反応が進みます。
このエネルギーの安定化がエントロピーに打ち勝って重合反応が進行する駆動力になります。。
ですが、ビニル基を有する化合物でも付加反応とその逆反応の速度が一致してしまうと重合反応は進行しなくなります。
このような付加反応とその逆反応の速度が一致する温度を「天井温度」と言います。
天井温度以上では成長反応は進行せず、解重合反応が進んでいきます。
一般にビニル化合物の二重結合の置換基が多くなると天井温度が低くなることが知られています。
例えばスチレンの天井温度は395℃ですが、スチレンの二重結合に一本メチル基が増えたα-メチルスチレンでは66℃となります。
このため、α-メチルスチレンは単独重合では重合が進みにくいモノマーです。
二重結合の置換基は天井温度に対して影響が大きく、メチル基一つでこれだけの違いがでます。
これは二重結合への付加反応の立体障害が大きいとエネルギー的に不利となるため、エントロピーの影響が大きくなってきます。
天井温度とギブスの自由エネルギー
温度が高いと解重合反応が進行しやすい理由はギブスの自由エネルギーの式から理解できます。
ΔG=ΔH – TΔS
ギブスの自由エネルギーΔGが負の値をとれば、反応が進行します。
ΔHはエンタルピーで重合熱(付加反応によって発生するエネルギー)に相当し、基本的に負の値(発熱反応)を取ります。
ΔSはエントロピーで乱雑さの量を示しており、重合反応は秩序だった方に反応が進むため負の値を取ります。
しかし、ΔSの項には温度Tが掛け算されています。
このため、温度を下げてやれば重合反応では反応の進行に不利となるエントロピーΔSの項の寄与を小さくできます。
逆に重合を温度を上げるとΔG=0となる温度、すなわち天井温度となり、重合反応が進行しなくなります。
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