ラジカル重合の開始剤は種類が多く、種類によって使用方法や用途が異なります。
この記事ではラジカル重合開始剤の種類とその性質について紹介します。
ラジカル重合 開始剤の種類について
開始反応で分類すると以下のように分類されます。
- 熱重合開始剤
- レドックス開始剤
- 光重合開始剤
それぞれについて特徴を解説します。
熱重合開始剤
広く利用されている重合開始剤です。
熱を掛けることでラジカルが発生し、開始反応が起こります。
主にアゾ化合物や過酸化物が熱重合開始剤に該当します。
過酸化物系の重合開始剤
有機過酸化物は酸素-酸素結合間でラジカル的に開裂して、ラジカルが発生します。
代表的な過酸化物系の重合開始剤として、過酸化ベンゾイル(Benzoyl PerOxide, BPO)が挙げられます(※1)。
有機過酸化物の場合、ラジカルの発生する結合の開裂は可逆的な反応です。
このため、発生したラジカルが不可逆的に別のラジカルに変化する(※2)か、モノマーに付加しないと、有機過酸化物に戻ります(Scheme 1)。
モノマーに付加するにはラジカルが元に戻る前に一定範囲を抜け出して拡散する必要があり、このような効果のことを「かご効果」と言います。
過酸化物系の開始剤は一般的に開始効率が高い傾向で0.9程度と言われています。
有機過酸化物は発生する酸素ラジカルの反応性が高いため、モノマーへの付加反応以外の副反応を起こすことも多いです。
※1 過酸化ベンゾイルは金属との接触や衝撃で急速に分解して爆発の恐れのある試薬です。このため、市販されているのは水で湿らせたものですが、乾燥すると非常に危険です。過酸化ベンゾイルは取り扱いに注意を要する試薬であり、次に紹介するAIBNの方が取り扱いやすい開始剤です。
※2 過酸化ベンゾイルの場合は、Scheme 2に示したように発生したベンゾイルオキシラジカルから脱炭酸してフェニルラジカルが発生することもあります。
二酸化炭素の脱離は不可逆反応のため、この段階までくるとBPOに戻ることができなくなります。
アゾ重合開始剤
アゾ化合物はN2の脱離を伴いながらラジカルが発生します。
代表的なアゾ化合物の開始剤として、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)が挙げられます。
有機過酸化物と異なり、N2脱離は不可逆な反応であるため、アゾ化合物では「かご効果」は観測されません。
AIBNの場合はScheme 3の反応が起こり、ラジカルが発生します。
ただし、発生したラジカル同士の不均化や再結合は発生する(ラジカルが失活する)ため、広義の意味合いではアゾ化合物でも「かご効果」はあると言えます。
また、過酸化物系に比べると活性の低いラジカルが発生するため、副反応の発生が少ない傾向です。
一方でアゾ化合物の開始剤は発生したラジカル同士の反応で開始剤が失活しやすく、開始効率が低い傾向にあります。
レドックス開始剤
酸化還元反応を利用してラジカルを発生させる開始剤です。
酸化剤と還元剤を組み合わせるため、開始剤として2成分を使用することになります。
レドックス開始剤は低温でも重合を開始できる点でメリットがあります。
レドックス開始剤の代表例として、鉄(Ⅱ)イオンと過酸化水素を組み合わせた系などがあります。
なお、この系は鉄イオンも過酸化水素も水に溶けるので、水系の開始剤になります。
光ラジカル開始剤
光を照射することでラジカルの発生する化合物を用いることで、重合開始剤になります。
熱的な開裂は起こらないため、光を照射したときだけラジカルを発生させられるメリットがあります。
代表的な光開始剤はベンゾフェノン系の化合物です。
ラジカル開始剤は取り扱いに注意
開始剤は反応性の高いラジカルを発生させる化合物なので、取り扱いには注意しましょう。
特に熱重合開始剤は温度を掛けると分解していきますし、過酸化物系は誘発分解(金属の接触で分解が促進されたり、発生したラジカルが開始剤を分解させる反応)を起こすので要注意です。
重合の実験で各種開始剤を取り扱う場合は、試薬会社の発行しているSDSに目を通しておきましょう。
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